シミュレーションニュースJSST
2013年1月31日号:日本シミュレーション学会(JSST)
日本シミュレーション学会からニュースレター「シミュレーションニュースJSST」をお届けします。(広報委員会)
年次大会の国際化に関する御報告(田中覚会長)
日本シミュレーション学会の年次大会は,現在,国際会議“JSST 20XX International Conference on Simulation Technology”として開催されている.これは,本学会が現在進めている学会活動の国際化の一環である. 2009年に,立命館大学において,シミュレーション分野を包括的に扱う国際会議としてはアジア最大級のAsia Simulation Conference 2009が,本学会の主催により開催された.それに連動する形で,翌年の年次大会JSST 2010(山形大学)は,国際化された大会の第ゼロ回として行われた.JSST 2010では,実験として,特別講演を含む一部の企画が英語化されたが,山形大学の皆様の熱意ある御協力により成功裡に終えることができた.これを受けて,国際化された大会の第1回と言えるJSST 2011 (東海大学) が開催され,ここでは,ほぼ全てのセッションが英語化された.東海大学の皆様の熱心な広報活動もあり,国外からの参加者数は大会史上最高であった.合わせて,各セッションで優秀講演賞を出すなど、特に若手研究者や学生にとっての大会の付加価値を高める新企画も行われた.そしてJSST 2012(神戸大学)では,全てのセッション・企画が英語化された. JSST 2012は,国際会議化されて以来最大規模の大会となり,また,様々な新企画も行われ,盛況のうちに終了した.(JSST 2012に関しては,別項を参照されたい.)
JSST 2012 (第31回年次大会) の御報告(田中覚会長)
2012年9月27-28日に,神戸ポートアイランドにある神戸大学統合研究拠点において,第31回日本シミュレーション学会大会が行われた:https://www.jsst.jp/e/JSST2012/index.html.
今回はスーパーコンピュータ「京」の本格稼働と同時期の開催であり,理化学研究所計算科学研究機構・運用技術部門長の横川三津夫氏による特別講演や,「京」のテクニカルツアーも企画された.合わせて,バンケットは神戸港のクルーズする客船内で行うなど,様々な新企画が行われ,大いに盛り上がる大会となった.
大会のプログラムに関しても,例年よりやや多い11のオーガナイズドセッションがもたれ,約280件の講演が行われた.現在,各セッションでの優秀講演賞の選出,学会の論文誌に推薦された優秀論文の審査などが進められている.
最後に,本大会では,日本シミュレーション学会が正式に法人化され,新たなスタートを切ったことを付しておきたい.
アジアシミュレーション学会連合(ASIASIM)について(国際委員会)
2011年 11月17日,ソウル国立大学校(Seoul National University)で開かれた国際会議 Asia Simulation Conference 2011において,日本,中国,韓国,シンガポール,マレーシアのシミュレーション学会の代表者が一同に会し,画期的な合意が行われた.アジア各国のシミュレーション学会が連合し,国際会議の開催や人事交流等において互いに協力し合うことを取り決めた「アジアシミュレーション学会連合」(Federation of Asian Simulation Societies,略称:ASIASIM)が正式に設立されたのです.
ASIASIMの母体となったのは,日本,中国,韓国の順番(ローテーション)で毎年開催されてきた Asia Simulation Conference (正式な略称は AsiaSim であるが,本稿では連合の略称と紛らわしいのでASCと略す)です.ASCは,シミュレーション全般を扱う国際会議としてはアジア最大級かつ最重要なものであり,約10年の歴史を持っている.以下に開催の歴史を示す:
・2004 Asia Simulation Conference: October 4-6, Jeju Island, Korea
・2005 Asia Simulation Conference: October 24-27, 2005, Beijing Friends
hip Hotel, Beijing, China.
・2006 Asia Simulation Conference: October 30- November 1, 2006, Meiji University, Academy Common, Tokyo, Japan.
・2007 Asia Simulation Conference:October 10-12, 2007, Seoul National University, Seoul, Korea.
・2008 Asia Simulation Conference:October 10-12, 2008, Fragrant Hill Hotel, Beijing, China.
・2009 Asia Simulation Conference:October 7-9, 2009, Ritsumeikan University,Shiga,Japan
・2011 Asia Simulation Conference:November 16-18, 2011, Hoam Faculty House (Seoul National University), Seoul, Korea.
・2012 Asia Simulation Conference:October 27-30, 2012: Shanghai Everbright Convention & Exhibition Center International Hotel, Shanghai, China.
ASCは,日本では,2006年に明治大学,2009年に立命館大学において,日本シミュレーション学会(JSST)の主催,中国シミュレーション学会(CASS)と韓国シミュレーション学会(KSS)などの共催で開催されている.次回の日本開催は2014年の予定です.ASIASIMの設立により,ASCは日中韓の3国以外でも開催されることになり,2013年にはシンガポールで開催されることになっている.
ASIASIM はヨーロッパにおけるシミュレーション学会の連合体であるEurosim (https://www.eurosim.info)をモデルにしたものです.国際会議や研究会の共催,会議録の出版協力,研究者の相互受け入れ,各種情報交換(メール・マガジンの相互乗り入れ等)など,幅広い協力活動を目指している.例えば,今年の日本シミュレーション学会の年次大会(JSST 2012)には,中国日本シミュレーション学会で優秀博士論文賞を受賞した若手研究者を招待している.今後はEurosimなどとの連携も視野においている.実際,ASIASIMの設立によって,アジア各国のシミュレーション学会が,Eurosimと連携する体制がようやく整ったのです.
ASIASIMの設立は,日中韓のシミュレーション学会関係者の悲願であった.その設立に大きな前進を見たのは,2009年に立命館大学で開催された ASC 2009においてであった.日本からの提案として,ASIASIM設立準備委員会が設立され,その委員長に日本シミュレーション学会会長(当時)の小野治先生(明治大学)が選出され,国際委員長(当時)の田中覚がサポートすることになった.そして,2年間の準備期間を経て,冒頭で述べたように,ソウルで開かれたASC 2011において,正式に ASIASIMが設立されたのです.ASIASIMの合意文書の原案は日本シミュレーション学会が作成し,若干の修正を経て採択された.内訳話をすれば,各国のシミュレーション学会には様々な事情があり,そのため,ASC 2011の直前まで,ASIASIMが設立できるかどうかは予断を許さない状況であった.しかし,各国関係者の熱い想いが様々な障害を乗り越えさせ,無事,国際会議の期間終了までにASIASIMの設立を見たのです.設立合意文書には,日本シミュレーション学会を代表して,会長(当時)の小山田耕二先生(京都大学)がサインした.ASIASIMの初代会長には,ACSの立ち上げメンバーの一人であり,その後もASCの発展のために長く尽力してこられた,中国シミュレーション学会(CASS)のBo Hu Li 会長が選出された.これも日本からの提案であった.このように,ASIASIMの設立には本学会が重要な役割を果たしたことを,ここで強調しておきたい.
2011年のASIASIM設立を受けて,2012年10月末に,ASIASIMが主催する初めての国際会議であるASC 2012が上海で開催された.論文投稿数は900以上あり,採択論文数は298,参加者は350名であった.採択論文のうち10件が最優秀論文(Best Paper)候補にノミネートされ,その10件のうち2件は日本からの論文であり,さらにその2件のうちの1件が Best Paperに選出された.なお,全ての採択論文は Springer発行の会議録に掲載されており,インターネット上でも検索でヒットする,いわゆる citation index 付きの論文となっている.
ASCは,従来から,中国政府が重視している国際会議である.中国は,スーパーコンピュータの開発を国家プロジェクトとして全力で推進しているが,ASCをその関連分野の国際会議と考えているからであろう.例えば,日本で開かれたASC 2009 では,当時の中国の文部科学副大臣が来日し,特別講演を行っている.今年の上海でのASC 2012に関しても,オープニングセレモニーの様子が,夕方のゴールデンアワーの時間帯のTVニュースで放送された.
来年の ASC 2013はシンガポールで開催される(詳細は本学会のHPやメール・マガジンでアナウンスの予定です).日中韓以外で開かれる最初のASCであり,是非とも成功させたいと考えている.また,本学会の国内大会JSST 2013とも連携をとり, JSST 2013の優秀論文はASC 2013に推薦されることになっている.さらに,2014年秋からは日本シミュレーション学会がASIASIMの幹事団体となり,ASC 2014は日本で開催される予定です(国内大会 JSST 2014との合同開催)こちらも,多数の参加と論文投稿を御願いしたい. ※ASIASIMの詳細情報は以下から取得できる:https://asiasim.org
日本シミュレーション学会の法人化について
1.はじめに
本学会は、2012年7月13日の総会において、これまでの任意団体を解散し、法人となることを決議し、9月10日の登記をもって、「一般社団法人 日本シミュレーション学会」として生まれ変わりました。本稿は、この法人化の実務を担当した前任の会長・理事が、法人化の意味合いや、変更点、併せて、本学会運営上の課題などについて、説明するものです。
まず、皆様にとって学会とは、何でしょう。会員の皆さんは、学会に何を求め、どんな学会にして行きたいと考えますか。
会員の皆さんは、学会誌を読む、年会で発表する、論文を投稿する、などを通じて学会という場を活用されていると思います。一方、学会という組織は、会費を集め、会誌を編集・発行し、年会等のイベントを企画・運営するというような膨大な仕事を必要とするので、役員・委員などとして多くの会員が,ボランティアによる貢献で学会を支えています。また,等しく会費を払う会員は,平等に学会運営に参画したり,必要な改革を行うよう求める権利を持ちます。つまり、学会の会員であることは、単に権利として得られるサービスへの対価として会費を払うという義務のほかに、学会運営への参画という権利と義務を持つことになります。「そんな、面倒なことはごめんだ」という方もいらっしゃるでしょうが、シミュレーション技術に関わる者が、協力し合って、この技術を発展させようという意志こそが学会活動の核です。そのため、これまで学会運営に直接関わっていらっしゃらなかった会員の皆さんにも、この法人化という大変革の機会に、ぜひ学会運営に関心を持って頂き、更なるご理解とご協力を頂ければと思います。これが、本稿の執筆目的です。
2.法人化の目的
一般的に「学会」とは、「学術研究の進展・連絡などを目的として、研究者を中心に運営される団体」(goo辞書より)のことですが、営利目的でなく会員自らが運営・活動している所が、ポイントでしょう。日本学術会議から指定を受けた「学会」だけでも、日本に1,500団体以上存在するようです。学会を大雑把に分類すると、社団法人と任意団体に分けられます。
日本シミュレーション学会は、1981年に「シミュレーションに関わる学術研究の促進を図り、もって学理及び技術の向上発展に寄与するとともに、その成果を社会に還元する活動を行う」ことを目的に、任意団体として設立されました。任意団体とは、法人格を持っていない社団(一定の目的をもった人の集団)で、「権利能力なき社団」とも言われます。法人とは、ホモサピエンスではないが、法律によって「人」として、権利義務の主体たる資格を認められた存在のことです。
例えば、マンションの管理組合や、同窓会や、サークルなど、会費を集めて活動する小規模な団体のほとんどは任意団体で、法人としての登記を行っていないので、銀行に口座を作る時でも、印刷会社などと契約書を交わす時でも、団体名を使うことができず、代表者の個人名を使うことになります。
通常は個人名でも問題ありませんが,何か不正があったり,問題が発生した場合,会長一人に責任が集中して個人的損害となったり,組織運営上のリスクが大きくなったりします。また,もっと可能性の大きい話として,国や関係機関から学会が調査研究を受託するような場合,法人であることが必要条件となります。
そこで,本学会も設立当初から,将来は社団法人になることを目指しており,そのための法人化準備金も積み立てていました。
以前は,社団法人になるためには主務官庁の認可が必要で,ハードルが高かったのですが,2008年に施行された「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」<https://law.e-gov.go.jp/announce/H18HO048.html>(以下,法という)によって,これまでより簡単に法人として登記できるようになりました。このため近年,従来から社団法人だった大規模学会が,新制度の社団法人に変わりつつあるのと同時に,本学会のように任意団体だった学会の多くが,一般社団法人として生まれ変わりつつあります。本学会も,この法に基づく定款を作成するなど条件整備を行った上,今年一般法人に変わることができたのです。
なお,法人化という組織改革に合わせて,法に定められた内部統治を行うことにより,健全な学会運営を行うこと,税法等に従い法人としての社会的責務を果たすこと,学会運営を会員から見えるようにすることなども,目指しています。
3.移行すべき法人の選択
本学会が法人化するに当たっての選択肢として,①公益社団法人,②一般社団法人(非営利性が徹底された法人),③一般社団法人(前項以外)が考えられました。①については,現状の任意団体から直接移行することが困難で,②か③を経由する必要があります。②は法人税の課税対象が収益事業のみに限定される点で③よりも有利です。このため,②を選択することにしました。
なお,①は,②よりも寄附を受ける際に税金上優遇されるというメリットがありますが,①になるには財政状況が健全であることをはじめ,いくつかの条件を満たすことを国に認定してもらう必要があります。将来②から更に①に移行することについては,今後の検討課題と考えます。
4. 法人化に伴う主な変化
会費や事業内容など,基本的な所は変更しませんが,最も大きな変化は選挙制度の導入です。これは,法人化のための必要条件ではありませんが,これを機に会員から見た学会運営の透明性を向上させるのが目的です。
まず,正会員・フェロー会員が選挙権・被選挙権を持ち,会員数の1/10に相当する代議員を選挙で選びます。選ばれた代議員が出席する総会で理事・監事を選出し,理事会において会長・副会長を選出します。法で定める一般社団法人の総会というのは,社員と呼ばれる構成員の半数以上が出席する必要があります。また,定款の変更などの場合は2/3以上の出席が必要となります。委任状でもOKなのですが,委任状を集める事務作業も結構大変です。そこで,他学会の多くが採用している方法と同じく,選挙で代議員を選び,この代議員を法人の社員として総会に出席してもらう方法をとることとしました。
ご承知のことと思いますが,初回の選挙は,今年の7月末に立候補が締め切られ,8月20~30日に投票が行われた結果,44名の代議員が選出されました。本稿執筆時点では,ここまでですが,神戸での年会に合わせて開催される新法人の第1回総会において,この代議員の皆さんが理事・監事を選び,その後の理事会で会長・副会長が選出される予定となっていますので,結果については学会のホームページ(https://www.jsst.jp/)を参照願います。
選挙以外にも細かな変更点は色々ありますが,本稿では割愛させて頂き,やはり学会のホームページに掲載されている新しい定款を,ざっとでも一読頂ければと思います。 なお,新しい定款の作成や,新法人の登記手続きについては,行政書士・税理士の先生に,助言やお手伝いを頂きました。今後も必要の都度お願いする予定です。
5. 今後の学会運営
以上の通り,一般社団法人への移行に伴う手続きは,おかげさまで何とか最終段階を迎えています。しかし,本学会の今後の運営を考えると,難しい課題がありますので,本稿の最後に問題提起として,少し書かせて頂きます。
それは,財政上の問題です。多くの学会,特に中小規模の学会が共通に抱えている問題ではありますが,本学会は,近年赤字の年度が多く,過去からの繰越金を食いつぶしている状況にあります。実はこれまで,正会員会費8,000円でやって来られたのは,賛助会員の企業からの会費収入がそれなりにあったのが大きな要因です。しかし,多くの企業が,近年は学会への賛助会員としての会費支出を抑制する傾向にあります。一方,個人会員の数も,ほぼ横ばいの状況が続いており,毎年収入が減少する傾向にあるのです。収入が減る中で,できるだけの支出削減を行って来ましたが,それも限界があり,結局は収入の方を増やさない限り解決しません。このため,必要なのは,何と言っても会員数を増やすことです。学生会員を増やし,学生が卒業して社会人になったら,そのまま正会員になる比率を増やす。また,厳しい状況にはあるが,賛助会員をできるだけ減らさないように,新たな協力企業・機関を発掘する。これらのためには,もちろん会員の皆さんの協力が必要ですが,若手会員の参加メリットを増やすための活動や,企業の関心を集めるような活動を活発にしていくことが必要でしょうし,国際会議の開催,英文論文誌の発行,出版事業など学会の活動を更に拡大していく必要があるでしょう。
本学会は,シミュレーションという横断的な技術を扱っているので,その「横断的」という所を強みとしてうまく活用していかないと,他の大規模学会や,新たに成長する分野に特化した学会などの陰に隠れて,存立すら危うくなるリスクを抱えています。新法人の財政状況や年度予算については,総会などにおいて報告があると思いますが,本学会は,「はじめに」で触れた通り,当初から「法人化準備金」を積み立てていました。旧制度と違って,今は法人化しても,特に基本財産を確保しておくことは求められていないので,当面の間は,赤字が続いても破綻するような心配はありません。しかし,当然積立金を目減りさせることを続けると,財政基盤が危うくなってしまいます。収支均衡の健全な財政状況に早く戻すことが,学会運営にとって最も重要な課題です。
以上を踏まえて,今後の活動活性化,それによる会員数の増加に皆様のご協力をお願い致します。
小山田耕二(前会長,現総務委員長)
シミュレーションニュースJSST 2013年1月31日号
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